女性の一生における骨量とエストロゲン
女性の一生において、女性ホルモンの一つであるエストロゲンは大きな波を描きます。
図 骨密度変化とエストロゲンの変化 骨粗しょう症状発症率
(鈴木, 2004; 藤田, 1989; 山本, 1999より改変引用)
エストロゲンが最も多く分泌される20歳代に人生の最大骨量を得るようになっており,閉経してエストロゲンが急激に減少すると, 骨量も同時に減っていきます.
骨は壊されたり作られたり、常に新陳代謝している
骨は一度できあがってしまうと, その後変わらないもののように思われがちですが, 実は古くなり劣化した骨は, メンテナンスされて新しい骨へと生まれ変わっています. これが骨の新陳代謝です.健康な骨では, 骨吸収(骨を壊す働き)と骨形成(骨を作るはたらき)のバランスがつり合っています. 骨を壊す細胞は破骨細胞(はこつさいぼう), 骨を作る細胞は骨芽細胞(こつがさいぼう)といい, この細胞のはたらきのバランスが崩れると, スカスカでもろい骨の骨粗しょう症になってしまいます.
骨の新陳代謝(リモデリング)
骨粗しょう症では骨代謝のバランスが崩れている
骨を弱くする原因
骨の強さ(骨強度)は骨密度だけではなく骨の質(骨質)も関係しており,
骨密度:骨質=7:3の割合で強さが決まります. ビタミンD, K,カルシウムなどの栄養素が不足することや,
糖尿病や慢性腎臓病など生活習慣病は骨質を悪くすることが知られています.
骨密度低下要因 エストロゲン・加齢・生活習慣病の影響(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年度版より引用)
妊婦さんの腸は通常の2倍カルシウムを吸収!
でも、授乳中はママの骨からカルシウムを動員…
妊娠期は胎盤を介して母体から胎児の骨格形成のために25~30gのカルシウムが移行し, その80%は妊娠後期(妊娠28週以降)に集中しています.(Kovacs and Ralston,2015)
妊娠後期は100~150 mg/日, 分娩前の6週間には300~500 mg/日のカルシウムを母体から胎児に供給する必要があります. このカルシウム出納には,
妊娠初期から母体の腸管カルシウム吸収率が倍増することが関与し, カルシウムバランスを保持しています. 一方,
母乳中への母体からのカルシウム供給は210 mg/日ですが, 母体の腸管からのカルシウム吸収率は妊娠前の状態に低下するため,
カルシウム出納のバランスを保つために, 腎尿細管でのカルシウム再吸収の亢進, 母体骨の貯蔵カルシウムの動員を要することになり,
十分なカルシウム摂取が必要になります.
授乳中のホルモンはママの骨の代謝を急速・高回転にしている
プロラクチンと吸啜刺激により脳の視床下部からのGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン:Gonadotropin releasing hormome)分泌が抑制され, エストラジオール分泌が低下, 乳腺からのPTHrPは骨吸収を亢進します. カルシトニンは乳腺組織にも存在し, 上記骨吸収に対するカウンターバランスとしてプロラクチンの分泌抑制, PTHrP(副甲状腺ホルモン関連蛋白:parathyroid hormome-related
protein)産生を抑制します. オキシトシンとその受容体は骨芽細胞, 破骨細胞に発現しており, 直接的に制御しています. セロトニンはPTHrPの骨吸収亢進作用を調節するといわれています.
母乳育児は母児にとってたくさんの恩恵があり素晴らしいことですが, まさに, 骨身を削ってわが子を育てるような仕組みのうえに成り立っています.