Ⅰ.妊娠後骨粗しょう症の治療について
妊娠後骨粗しょう症の治療について、ガイドラインなど一定の見解はまだ存在しません。下記Ⅲで、ご紹介する治療法は、妊娠授乳期・骨代謝研究の第1人者であり内分泌学博士のC.S.
Kovacs先生が2015年に論文発表した内容を参考にまとめたものです。
実際の臨床において、本疾患の患者様は、主治医の先生とよく相談されたうえで、個々の状態に応じた治療を選択していくことが良策です。まず、純粋なPLOであるかどうか、その他、続発性骨粗しょう症としての原疾患がないかどうかの判断が必要です。また、骨折の急性期なのか、それとも骨折後の骨代謝状態が安定化した時期なのかによっても治療の選択が違ってきます。骨粗しょう症の治療目標は「新規骨折を防ぐ」ことと日常生活の質(QOL)の向上です。そのために、「骨強度」を上げることと転倒しないカラダづくりが重要となります。「骨強度=骨密度+骨質」であり、転倒予防には筋力アップが大切です。薬物療法だけでなく、食事や運動療法・リハビリテーションなどをおこない、骨密度だけにとらわれず総合的に骨を守っていくようにしましょう。
Ⅱ.妊娠後骨粗しょう症と鑑別が必要な疾患
まず、 他の疾患が原因である続発性骨粗しょう症の場合は、原疾患の治療が優先されます。続発性骨粗しょう症は以下のような疾患があげられます。
(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版より)
上記のほか、まれですが乳がんの骨転移でも骨折の原因となるため、注意が必要です。
Ⅲ.PLOの治療(C.S.Kovacs:Osteoporos Int (2015) 26:2223–2241)
◆全てのPLO女性に
◆重症骨折の症例
・鎮痛薬
アセトアミノフェン
NSAID(非ステロイド性抗炎症薬:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug)
オピオイド
抗神経障害薬
・骨特異的療法
ビスホスホネート(アレンドロネート、リセドロネート、ゾレドロン酸など)
デノスマブ
テリパラチド
非経口カルシトニン— 椎骨骨折の痛みの軽減のための短期的な使用
・外科的治療
関節形成術
脊椎形成術
脊髄融合
◆股関節の骨粗鬆症に
・鎮痛薬
アセトアミノフェン
NSAID
オピオイド
・外科的治療
骨折に対し股関節置換/関節形成術
反対側の股関節の予防関節形成術またはローディングを検討
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※ 2015年以降 新薬ロモソスマブが発売されており、骨特異的治療薬に追加考慮したい
※ カルシウム・ビタミンD・ビタミンKの充足度を確認し、適正化のために処方薬が利用されることがある
※ 日本ではビタミンD不足者が多いため、骨特異的治療薬とは別に活性型ビタミンD製剤の使用が標準的である
活性型ビタミンDが処方されている時はカルシウム製剤の処方は特別に摂取不能の場合にのみおこなう
※ 治療効果判定は半年ごとが標準的 骨密度・骨代謝マーカー・ADL(日常生活動作)の状態を観察し治療方針を決めていく
現在、妊娠後骨粗鬆症により、脊椎圧迫骨折などを起こした際の、リハビリテーションは十分に対処されていないのが現状です。
いわゆる、高齢者の椎体骨折に対しては、骨折部位のコルセットなどでの固定を行いながら、日常生活動作が自ら行えるように、筋力低下を予防したり、バランス能力の低下を予防するための理学療法を実施します。
ここでいう、日常生活動作というのは、ベッドから起き上がる、着替える、歩く、トイレに行くといった、自分自身の身の回りのことを指します。
しかし、妊娠後骨粗鬆症の場合、罹患年齢が若年ということから、日常生活動作は痛みのコントロールが行えていれば可能なことが多く、理学療法の必要性が認知されにくくなっています。
『妊娠後』であるということと、『赤ちゃんのお世話』が日常生活動作に含まれるという側面が十分に理解されていません。
妊娠・出産では、背骨や体幹を支える筋の機能低下が起こっており、さらに脊椎の圧迫骨折がある場合には、体幹を支える機能が脆弱になりやすいため、不良姿勢による痛みや、骨折部位以外の関節などへの負荷が起こり、本来起きなくてもよい痛みを感じてしまうことも起こり得ます。
そのような状態で、さらに自分自身の身の回りのことだけではなく、赤ちゃんのお世話もしなければなりません。
骨折部位が治癒したとしても、脆弱な体幹機能のまま、赤ちゃんの抱っこなど負荷のかかる日常生活動作が必要になります。
従来の、椎体骨折に対する理学療法に、妊娠後の身体に対する知見と、赤ちゃんとの生活という背景を十分に加味した、リハビリテーションが必要です。
私たちは、妊娠後骨粗鬆症に対する新しいリハビリテーションの概念を普及、実践することにも取り組んでいます。